top of page

Blog:大地X暮らし研究所

執筆者の写真辻信一

日本発の「トランジション・タウン」ムーブメント

『僕らが変わればまちも変わり、まちが変われば世界も変わる ~トランジション・タウンという試み』(榎本英剛著、地涌の杜)という本が出る。日本発の「トランジション・タウン」入門書。これは待望のニュースだ。これをきっかけに、世界のローカリゼーション運動を真ん中で引っ張っているトランジション・タウンが、さらに多くの地域に広まることを願う。現在、先行予約することで、出版に協力することもできる。→ 購入予約サイト:https://ttfujino.net/book/

ぼくは原稿を読む機会をいただき、次のような推薦メッセージを送らせてもらった。その下にはこの本の「はじめに」と、目次を載せておく。



<推薦メッセージ 辻信一>


送られてきた原稿を読んで、「これこそ、ぼくがずっと待っていた本だ」と気づかされた。そして、これを知らず知らずのうちに“待ちわびていた”人はたくさんいるだろうと思った。その人たちのためにも、ぼくは出版を楽しみにしている。


本の中心をなす柱は、トランジション藤野の物語だ。その立ち上げから現在までの歩みを、あくまでも具体的に、自らの体験をベースにわかりやすく伝えてくれる。この物語に奥行きを与えているのは、著者の榎本さん自身のコーチングの体験、フィンドホーンやトトネスでの体験、彼が師と仰ぐジョアンナ・メイシーとの出会いといった背景である。こういう文脈の中で、今や合言葉となった−―とはいえ、日本語には馴染みにくい−−「持続可能(サステナブル)」という言葉が、読者のうちで血の通うものになっていくものと期待したい。


これはトランジション・タウン運動への格好の入門書でもある。それがイギリスでいかに生まれ育ち、世界に広がっていったのか、また、今では70余カ所を数える日本のTT運動がどう育ち、広がっていったのかを知ることもできる。


海外の思想や運動を日本に輸入して種を蒔いても、なかなかうまく根づかないことがあるが、TT運動はその例外の素晴らしい一例だろう。いかにしてこの根づきが可能になったかを、ぜひ読者はこの本を通して学んでほしい。それは多分、これまで社会活動や環境運動に対してあなたが感じていたかもしれない距離感を解消する役目を果たしてくれるのではないか。


それにしても、コロナの時代もその2年目が始まったばかりの今、この本が出版されるのは、なんという絶妙のタイミングだろう。ますます多くの人たちが、トランジション(移行、転換>の不可避性と必要性を感じている。しかし、その同じ人たちがますます無力感や孤立感に苦しめられてもいる。そういう人たちに、この本を読んでほしい。


この本によれば、問題は自分をどうとらえているかという観方にこそある。だから<内なるトランジション>とは、まわりの人間たちや自然から分断された存在として自分をみる見方から、「自分を他者や自然とつながった存在として観る」という見方への転換だ。こうした内なる転換が、持続可能な町づくり、コミュティづくりという外なる転換と調和しながら、一体となって起こる。


それが今まさにコロナパニックの裏側で、世界のあちこちで起こりつつある、おだやかで楽しげな、でもあくまでも「ラジカル」な大変革運動である。


 

<はじめにーー僕らが変わればまちが変わり、まちが変われば世界が変わる ~トランジション・タウンという試み>


本書でご紹介する「トランジション・タウン」という試みは、この個人と世界という2つのレベルの間に「まち」という中間的なレベルを差し挟むことで、乖離した両者の間に橋を架けようとするものです。ここでいう「まち」とは主に行政区分を意味する「町」でも商店などが立ち並ぶ通りを意味する「街」でもなく、「地域コミュニティ」を指しています。世界というレベルは大き過ぎてあまり実感が持てませんが、まちというレベルは個人的にも実感しやすく、かつその変化が国や世界などさらに大きなレベルに影響を与え得る可能性を個人のレベルよりは想像することができます。

本書で主に取り上げているのはその「まち」の中でも、人口1万人弱とかなり規模が小さな藤野というコミュニティで、私が仲間たちとともにこの10年あまり取り組んできた活動についてです。しかし、そんな小さなコミュニティで起きたことが直接的あるいは間接的に他のコミュニティに決して少なくない影響を与え、テレビや新聞、雑誌、ネットメディアなどで数多く取り上げられるとともに、視察の依頼も頻繁に入るようになりました。

私もよくイベントなどで私たちがやってきた活動について話をさせていただく機会がありますが、最初は斜に構えていた聴衆が話を進めるうちに身を乗り出してきて、会場全体が熱を帯びてくるのをほぼ毎回のように体験しています。そのような体験を繰り返すうちに、「自分たちのストーリーには人に力を与えるものがある」と実感するようになり、これはより多くの人たちに伝える必要があるのではないかと考えたことが本書を書くきっかけとなりました。

それと同時に、自分たちが10年ほど試行錯誤を繰り返しながらも成し遂げてきたことを、まだ道半ばだとは言え、一度記録に残しておくべきではないかと思ったことも本書を書くもう1つの動機となりました。 (『僕らが変わればまちが変わり、まちが変われば世界が変わる ~トランジション・タウンという試み』はじめに より)


<目次>


はじめに

第1章 トランジションとは何か

≫ トランジションが意味すること

≫ 市民を主体とする活動

≫ トランジション・タウン 3つのキーワード

≫ トランジション・タウンの定義

≫ トランジションの12ステップ

≫ トランジションの3H

第2章 トランジション藤野の活動について

≫ 藤野ってどんなまち?

≫ なぜ藤野を選んだのか

≫ トランジション藤野の始まり

≫ 初期の頃の活動

≫ ワーキング・グループの結成

≫ トランジション藤野のモットー

≫ リーダー不在の組織

≫ チェックインというしくみ

≫ トランジションBarの開催

≫ オープン・スペースについて

≫ かわら版の発行

≫ 他団体との連携について

≫ 土台づくりから成長の時期へ

第3章 トランジション藤野の活動の実例

≫ 地域通貨よろづ屋の誕生

≫ クマの出没がきっかけで始まった森部の活動

≫ 東日本大震災と藤野電力

≫ 自然発生的に立ち上がった被災地支援の活動

≫ お百姓クラブ

≫ 里山長屋

≫ 健康と医療

第4章 日本におけるトランジション活動の拡がり

≫ トランジション・ジャパンの設立

≫ 広報

≫ サポート

≫ トレーニング

≫ ネットワーキング

≫ 60ヶ所まで拡がった日本のトランジション・タウン

≫ 元祖・日本のトランジション・タウン

≫ “飛び火現象”で始まったトランジション・タウン

≫ 地方発のトランジション・タウン

≫ 既存の活動とつながったトランジション・タウン

≫ 比較的最近立ち上がったトランジション・タウン

≫ よく受ける質問

第5章 トランジション藤野のその後

≫ 地域の外へも意識が向くきっかけとなったワンデイ

≫ 藤野トランジションの学校

≫ TT藤野ツアー

≫ 地域内へも拡がったトランジション・タウン活動の影響

≫ 気候変動の藤野学

≫ 行政との連携で実現した充電ステーション

≫ 新しい投資のあり方を示した大和家の地域内クラウドファンディング

≫ 内なるトランジション

さいごに


閲覧数:209回

最新記事

すべて表示

Comments


bottom of page