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Blog:大地X暮らし研究所

執筆者の写真辻信一

森の木々はどうやって話すのか(後)スザンヌ・シマード



では科学についてお話ししたいと思います。アメリカシラカバとダグラスモミはどう交流していたのでしょう?彼らは炭素という言葉で会話していただけでなく、窒素やリンや水、情報としての防御信号、アレル物質、ホルモンなどの言葉で会話をしていました。実は 私の発見以前にも、科学者の間では、地下における「菌根」という共生関係がこれに関わっていると考えられていました。菌根(マイコライザ)とは文字通り「菌の根」という意味です。


森林を歩くと樹木の生殖器官が見られます。キノコがそうです。でもキノコは、全体のほんの一部に過ぎません。キノコの柄からは菌糸が延び、菌糸体を形成しています。その菌糸体は、樹木を含む全ての植物の根に着生し繁殖します。菌根菌の細胞が植物の根の細胞と交わると、栄養分と炭素との交換が行われます。菌根菌は土壌内に広がって土の粒子1粒1粒を包み込み、そこから栄養分を吸収します。菌糸体は土中にぎっしりと張り巡らされており、私たちの足の下だけに何百キロもの長さの菌糸体があってもおかしくないのです。


それだけではありません。菌糸体は個々の樹木のあいだをつなぎます。同じ樹種のあいだだけでなく、カバノキやモミの木というように、異なる樹種のあいだも。それはまるでインターネットのような働きです。ほかのネットワークがそうであるように、菌根ネットワークにもノード(集合点)やリンクがあります。私たちが作成したこの地図はダグラスモミの森の一角にある、すべての木と菌根菌のDNAの短配列を1つ1つ調べて作成されたものです。この絵の中の○はダグラスモミのノードです。線は菌根菌で繋がっているリンクです。


最も大きな濃い色のノードは、一番頻繁に活動している木です。私たちはこれらをハブとなる木という意味で、「ハブツリー」、あるいは、もっと愛情を込めて「マザーツリー(母の木)」と呼んでいます。なぜならこういうハブツリーは低木層の若い木々の世話をしているからです。黄色い丸が見えるでしょうか。それは、古い母の木のネットワーク内で根づいた実生苗です。一つの森の中で、一本の母の木が何百もの木とつながっていることもあります。同位体トレーサーで調査したところ、母の木が菌根ネットワークを通して、余分の炭素を低木層の苗に与え、苗の生存率を4倍にあげていることも分かりました。


誰でも自分の子どもは可愛いものです。でも、ダグラスモミも自分の子どもを認識できるのでしょうか、母熊が自分の子熊が分かるように? これを調べるために、ある実験をしました。母の木の元で その苗木と他の木からの苗木を一緒に育てます。すると母の木は自分の子どもを確かに認識するのです。母の木は自分の子どもたちを、自分の庇護下に置き、菌根ネットワークを拡げ、自分の子どもたちにはより多くの炭素を送ります。また自分の根が広がりすぎないようにして、子どもたちが根を伸ばせる場所を作ります。


母の木が傷ついたり、死にかけたりすると、次の世代に生きる知恵を受け渡します。同位体トレーサーで突き止められたのは、傷ついた母の木から炭素が、幹を通って菌根ネットワークに、そして周りの若い木々にと、防御信号と共に送られているということでした。そしてこれら二つの組み合わせで、若木がこれから受けるストレスに対する耐性が強化されるのです。


そうです、木々は話すのです。(拍手)ありがとうございます。木々は会話を交わし合いながら、自分たちのコミュニティ全体の耐性を強化しています。それは私たちの社会共同体や家族を思わせます。まあ、そうでない家族もありますけどね。(笑)


さて本題に戻りましょう。森は ただの木の集合体ではなく、ハブとネットワークを備えた複雑なシステムです。その幾重に重なるネットワークが、木々を結びつけ、相互のコミュニケーションを可能にし、それがフィードバックや環境適応の道を開きます。こうして森全体の再生能力が高まるのです。これも、多くのハブツリーがあって、重層的なネットワークが張り巡らされているおかげです。


とはいえ、森はとても傷つきやすいものです。自然の災い古い大木を好んで攻撃するキクイムシのような自然の災いだけでなく、人間による大木を狙った択伐や皆伐も、森に痛手を負わせます。ハブツリーの1本や2本くらいと思うかも知れませんが、それだけなくなっても森は元に戻れなくなってしまうのです。ハブツリーは飛行機の部品リベットとは違います。リベットが1つや2つ外れても飛行機は飛べますが、外れたリベットの数がある限度を越えたり、翼を止めているリベットが取れたりすると、機体のシステムは崩壊してしまいますね。


さあ 森に対する見方は変わりましたか?(聴衆)イエス! いいですね、うれしいです。


私が研究を通じて発見したことが、林業のあり方を変えられるのではないかと思ったと、先ほど、私が言ったことを思い出して下さい。さて、そうなったかどうか、あれから30年たったカナダ西部の今の様子を見てましょう。これは、ここから百キロほど西に行ったバンフ国立公園の境界地域にある森です。皆伐されたところだらけですね。これではうっそうとした森とは言えません。


2014年のW R I(世界資源研究所)の報告書によれば、カナダは過去10年間に世界で最も森林破壊が進んだ国です。みなさんは、きっとブラジルだと思われたでしょ。カナダでは、破壊された森林面積の割合は年に3.6%にのぼり、私の推定によるとこれは再生可能なペースの約4倍のスピードです。こうした規模の森林破壊は水循環に悪影響を及ぼし、野生生物の生息環境を劣化させ、大地に固定されている温室効果ガスを大気中に放出させることが分かっています。その結果、森林はさらに撹乱され、樹木の立ち枯れも増えてしまいます。


それだけではありません。特定の1、2種だけを植え、雑木と見なされたアスペンやカバノキを除伐し続けることで森が単純化され、多様性を失い、木々は感染症や害虫に対する耐性を失ってしまいます。脆弱になった森は、気候変動が進む中で、極端な事態を招き寄せてしまいます。その一例が、最近北米に広がったアメリカマツノキクイムシの大量発生や、この数ヶ月間にアルバータ州で起きた大規模な山火事があります。


最後の問いに移りたいと思います。森林を弱体化させる代わりに、どうすれば森林を、気候変動に立ち向かえるように強化できるか、です。


複雑なシステムである森林のすばらしさは、その驚くべき自己回復力です。最近の私たちの実験では、伐採を小区画ごとのパッチカットにとどめ、ハブツリーを残し、樹種、遺伝子、遺伝子型の多様性を維持、再生できるようにすることで、菌根ネットワークが実に早く回復することがわかりました。これを念頭に置いて、次に、四つの単純な解決法を提案しましょう。実行に移すには複雑すぎるという言い訳はもう通りませんよ。


まずは、みなさん、森に行かなくてはなりません。地域の森と自分たちとの関わりを取り戻すのです。ほとんどの森は現在、どこにでも共通する同じやり方で管理されていますが、よき森林管理はそれぞれの地域の状況を知ることなしにはありえません。


第二に、原生林を残さなくてはなりません。原生林は遺伝子、母なる木、菌根ネットワークの宝庫だからです。それには伐採を減らさなければなりませんが、私は伐採をやめようではなく、減らそうと言っているんです。


第三に、伐採をすることが必要な時には、太古から受け継がれてきた遺産、つまり、母の木とそのネットワーク、雑木、遺伝子などを保持し、その知恵が次世代の樹木に受け渡されるようにしなければなりません。そうしてはじめて、若木たちは将来のさまざまな困難に立ち向かえるようになるのです。その意味で、私たちはみな自然保護主義者であるべきです。


第四に、そして最後に、種や遺伝子型や構造の多様性が備わった森が再生(リジェネレート)できるように、植林などによって手助けすることです。母なる自然が持ち前の知恵で自らを治癒できるよう、必要な道具を用意してあげるのです。


思い出してください。森とはただの木々の集まりではないということを。しかもそれらの木々はただ生存競争しているのではなく、見事に協力しあっているのです。


私の犬に話を戻すと、屋外トイレに落ちることで、あのジッグズは、私を知られざるもう一つの世界へと導いてくれ、森についての私の見方を変えてくれました。みなさんの森林観もこの私のトークで変わったことを願っています。


ありがとうございました。(拍手)





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